オルガン(Organ)
ギリシャ語のオルガノン(organon、道具、器具)に由来する。 ふつう、パイプ・オルガンをさすが、日本ではリード・オルガンや電気オルガンも含む。 歴史 <古代>オルガンの起源は、ギリシャ神話に登場するパン(半獣神)のパンパイプだと言われるが、 詳しいことはわからない。 現在では、アメリカインディアンの中に空気を利用した楽器を用いる例があることなどから、 ヨーロッパ以外の状況にも関心がもたれている。 オルガンの歴史が明らかになるのは、アラビアの文献に記されているヒドラウリスという楽 器からである。これはB.C.250年頃にアレクサンドリアのクテシビオスによって発明されたも のといわれ、水圧を利用して空気を圧縮するだけで、まだ鍵盤、送風器やパイプのキーは 無かった。 非常に騒々しい音で、軍楽や円形競技場で用いたようである。 その後、4世紀にふいごの工夫がなされ、5世紀初めに銅または青銅製のパイプが作られ た。ビザンツ帝国((東ローマ帝国)ではオルガン制作およびその演奏が盛んで、9世紀頃 には送風や演奏に何人も要する大きなオルガンを西ヨーロッパにもたらした。 その影響を受けて、12世紀にはイギリスのウィンチェスター寺院で70人の操作が必要な 26のふいご、400のパイプを備えた大オルガンが作られた。 まだストップ(音栓)は無かったが、パイプは各系列ごとに、その内部で口径の等しいもの に統一されたので、音色の変化が得られた。 <中世>13世紀以降になると、キーが空気調節弁を操作し、また数個の半音を含む3オクターヴ の鍵盤が備わった。 14世紀から従来の大きなオルガンとは別に、ポルタティブ・オルガン、ポジティブ・オルガン、 リーガル・オルガンのような小規模の物が普及した。 ポルタティブ・オルガンは左手でふいごを操作し、右手で演奏する携帯用のもので、イギリ す、フランスから広まり、行進曲などの世俗音楽に向いている。音域は1オクターヴから2 オクターヴで、低音はハ音とヘ音の間におかれ、6本から12本のパイプは1列または2列 に並んでいる。 ポジティブ・オルガンは室内用で、16世紀初めにストップやペダルの装置が一応整い、ポ リフォニー(複音楽)の発展に十分役立った。 リーガル・オルガンはリードのみを応用した16世紀の特殊なオルガンである。 <近世以降>オルガン音楽の最盛期である17世紀から18世紀前半のいわゆるバロック・オルガ ンは従来のオルガンの特質を十分に残し、さらにいっそう柔らかな明るい温色を示した。 代表的な製作者はドイツのゴットフリート・ジルバーマンである。 18世紀末からは、ロマン主義的な表現力と管弦楽的な音響効果を要求して、カップラー ・増音器・ピストン・クレッシェンドペダル・給合ペダルなどの装置を加えた。 しかし、オルガンという楽器固有の特色を軽視したとも考えられるこの傾向にタイしては、 オルガン本来の形に帰るべきだという反省や運動も起こり、その二つの傾向が現在に もおよんでいる。 パイプ・オルガン 建築物に匹敵するほどの大きな規模のもので、送風部分の装置、多数のパイプの 調整、そしてそれら内部の構造と鍵盤とのつながりには複雑な仕組みが見られる。 (1)送風部分 現在は電力モーターによっているが、ふいごが働く所では空気がポンプ・吸風機・通風 機などによって圧縮され、次に均等な音質を得るために、圧力は送風機の中で気圧 衡器により一定の規定量に保たれるようになっている。 パイプに風を送る通風弁を備えた風箱(ウィンドチェスト)がオルガンの心臓部であり、 その風箱の上に音高、音響の強度や音色の点で異なる特質を持つ、幾系列かのパ イプが備え付けられている。 (2)パイプ(発音部) 各オルガンに含まれるパイプの数は多様だが、パイプの形状によって、空気柱の振 動が変わり、音色が異なってくる。ふつう管長と音高の尺度はフィートで示される。 オルガンでは振動方法の違いからフルー・パイプとリード・パイプに大別される。 リードのないフルー・パイプには、上端の閉じた閉管と開いた開管がある。 閉管は開管の1/2の長さでほぼ同じ音高となり、音色は柔らかい。これらは主要音 管またはディアパソン・フルート管・ストゥリング管などに用いられる。 リード・パイプに使用するビーティング・リードはリード・オルガンのフリー・リードとは異 なり、カーブを描いた簧で管のシャロットという平らな部分を振動させると、それにとも なって管に通じる穴が開閉する。その部分は風箱から導風するソケットに囲まれてい て、オルガン独特のアンサンブルを示すコーラス・リード、バロック音楽で盛んに用い られた音色を重んじるセミコーラス・リード、そして管弦楽の楽器を模倣したソロまたは オーケストラ・リードの3種がある。 さらにパイプの特色としては、豊富な音色を得るために、音色の等しい半音階的な一 系列のパイプを統一して、普通は数系列のパイプが要求されることがあげられる。 (3)鍵盤 ふつうのオルガンは4段の手鍵盤(マニュアル)と1列の足鍵盤(ペダル)をもち、50か ら100のストップがつく。 音域は手鍵盤が61音(はから上3点ハ)の5オクターヴで、足鍵盤が32音(下1点はか ら上1点ト)の2オクターヴ半だが、実際にはストップの利用により9~10オクターヴを 含む。 主なストップにはさまざまなオクターヴの音高を示す基本ストップ、標準音高の協和音 の一つに一致するムーテーション・ストップ、そして標準音とその協和音を選択する混 合ストップなどがあり、一般にその数の多いものほどすぐれた楽器とされる。 リード・オルガン これに属する代表的な楽器は、ハルモニウムとアメリカン・オルガンがある。 ハルモニウム 19世紀に発展したもので、奏者がペダルによって操作する1対のふいごが空気の 流れを一様にして振動を起こし、金属弁によって発音する。その金属弁はフリー・ リードといい、リードが自由に通る広さの穴の内外でリードが動くのである。 パイプオルガンとの共通点は、風の供給、鍵盤、音の任意の持続、多様な音色を 得るストップを持つことだが、相違点はハルモニウムの方がより家庭的な楽器で ある。 アメリカ・オルガン 1835年頃、パリのアレクサンドル・ハルモニウム製作所の職員が発明し、アメリカ に移入された。 リードと空気の圧縮作用で風を通すのではなく、現在は電動式だが、始めはふいご で内部に風が吹き込まれた。 音はハルモニウムよりも柔らかくオルガン風だがハルモニウムのような表現力はな い。 電気オルガン ハモンド・オルガンが代表的な楽器であるが、これは大きさと型の上でスピネット( ピアノの前身で鍵盤付きの撥弦楽器)に似ている。5オクターヴの2段鍵盤である。 モーターで動く回転式発電機が振動数を変え、また両鍵盤の左端のキーや上段 鍵盤右端のバーにより音色を調節する。 他にペダルがあり、増幅器と拡声器の箱が備えられている。 この他、エレクトーンなどの電子オルガンもある。 |