蝶の夢

1.不思議な蝶々

 ある春の夜のことでした。
 ちいさなマリアは、自分の部屋のちいさなベッドで、ぐっすりと眠っていました。
 夢の中で、ちいさなマリアは、おばあさんの焼いてくれたアップルパイを食べようとしていました。
 おばあさん特製のアップルパイは、ちいさなマリアが世界で一番好きな食べ物でした。
 そのアップルパイを前にして、ちいさなマリアがちいさな銀のナイフとちいさな銀のフォークを手にしたとき、
 「ワン、ワン!」
 
 ちいさなマリアはびっくりして、ぱっちりと目を開けました。
 その途端、アップルパイは消え……目の前には、レトリーバーのジョーゼフの大きな顔がありました。
 
「あーん、ジョーゼフったら!あたし、アップルパイを食べるところだったのよ!」
 ちいさなマリアの泣きそうな顔を見ながら、ジョーゼフはアップルパイ色の尻尾をぱたぱたと振ると、
 戸口の方に歩いていきました。
 そして扉の前に座ると、またちいさなマリアの顔を見つめました。
 
「なあに、ジョーゼフ。いい子はこんな夜中にお外に出ちゃいけないのよ。」
 ジョーゼフが夜中にお外に出たがるなんて、初めての事でした。
 トイレは寝る前にきちんとすませますし、おやすみの挨拶をした後に「おなかがすいた」とか「お水が飲みたい」
 なんて言ったことは、一度もなかったのです。


 目をこすりながら、ちいさなマリアがベッドから降りたときでした。
 窓の外を、何か光るものがキラキラッと横切るのが、カーテンの隙間から見えました。
 
「あら?なにかしら?」
 ちいさなマリアは、窓のそばに行くと、そっとカーテンの隙間から覗いてみました。
 ヒラヒラヒラヒラ………。
 それは蝶々でした。真珠色に輝く蝶々が、ヒラヒラキラキラ、お外を飛んでいたのです。
 ジョーゼフが今度は「キューン」と鼻を鳴らしました。とってもお外に出たそうです。
 
「行ってみましょ、ジョーゼフ。でも静かにね。」
 唇に指を当てて、しーっとやってみせると、さっきまでジョーゼフにお説教していたことなんかすっかり忘れて、
 ちいさなマリアはいそいそとお外に出ていきました。

 ちいさなマリアと大きなジョーゼフがこっそりお外に出てみると、真珠色の蝶々は、まだヒラヒラと飛んでいました。
 蝶々が羽を動かすたびに、銀色の光の粉がキラキラと舞い踊ります。
 
「きれいねぇ。」
 ちいさなマリアは嬉しくなって、蝶々の下でくるくると踊り始めました。
 蝶々はヒラヒラキラキラ舞いながら、ゆっくりと飛んでいきます。
 だんだんおうちから離れていきますが、はしゃいでいるちいさなマリアはちっとも気づきませんでした。



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                                                 (2004・5・8 アップ)

                                                  (BGM : 幻の蝶)