民族音楽
英: folk music 独: Volksmusik
仏: musique populaire 伊: musica popolare
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民族音楽とは、特定民族または種族或いは民衆が自らその全体のものと感じている音楽で、 特定人或いは特定機関等から与えられたものでなく、流行歌のように一時的なものでもなく、 かなり永続的なものである。 それは民族や種族に広く一般的に行われているもので、その点で、特に教養のある者だけの もの(芸術音楽・Kunstmusik)とは別で、芸術性や個性には乏しいが、民衆と深く密接に結び ついていて、民族性が濃い。その主なものは民謡曲とダンス曲である。 民族音楽の作詞者や作曲者は不明のことが多いが、作者が不明のものまたは民衆そのものが 作ったものと決まっている訳ではなくて、作者が知られていることも少なくない。 民族音楽は一般に簡素で、純朴で、民衆の生活に結びついていて、その感情をよく表しているし、 また、時代と共に変化している。 民族音楽にはいろいろな種類があるが、その主題から見た主なものは A.子供の音楽―遊技の音楽、子守歌等。 B.宗教的なもの―祭典的なもの、カロル等。 C.恋愛や結婚に関するもの。 D.戦争や軍事に関するもの及び愛国的なもの。 E.労働や商売等に関するもの。 F.飲酒に関するもの、滑稽なもの。 G.葬儀に関するもの。 H.物語のもの。 I.ダンスに関するもの などである。 民族音楽には声楽曲が多いが、器楽曲のこともある。 声楽曲は無伴奏のことも少なくないが、今は大抵何かの伴奏を持っているし、単旋律が普通で あるが和声のついていることもある。 旋律は一般に、形式的には簡素であるが、リズム上はかなり自由である。 音階は特別なものが少なくない。 民族音楽はどの民族にも種族にもあるが、その民族、種族、民衆群によってかなり違った性格を 持っている。 そういう特殊性格を起こす原因や条件は、地理的なもの、歴史的なもの、宗教的なもの、経済的 なもの、人種的なもの等多種多様である。 各民族や種族の民族音楽の特殊な性格を全部挙げることは、ここには出来ないが、最も主要な ものは大体次の通りである。 日本―多くは日本独特有の音階により、一般に単旋律でリズムは自由であるが、地方により、 民衆の生活により、性格がかなり違っている。 →日本音楽 イタリア―この国がヨーロッパでの南国なのと、その民族がラテン系なので、一般に開放的で 率直で、表出が端的であり、露骨でさえある。 音階は多くのものは普通の和声的なもので、その旋律は明快で歌唱的である。 しかし、ここでも地方によって性格がかなり違っている。 →イタリア音楽 北部トスカーナ地方のものはドイツ・フランス的で、特に、トリノ辺りのものはフランスの ものに近い。 東トリエステの辺りはドイツ(オーストリア)的で、形式が健実で、旋律が変化に乏しく 重々しい。 ヴェネツィアには船(特にこの地特有のコンドラ)に関する民族音楽(ゴンドリエラ、バル カローラ)がある。但し、この「地方にはバルカン地方の影響も見られる。 北部から南下するにつれ、イタリア民族音楽は明るさと解放性をの度を増していく。 ローマは、宗教的なものが多い(教皇の存在により)。 ナポリは風光明媚な観光地なので明るくて媚びを含んだ表出の露骨な音楽が多く、 ナポリターナとして広く知られている。その多くはナポリ地方の言葉を用いているが、 大抵は山の麓で毎年行われた流行歌と競技会(ピエデグロッタ)で優勝した、人為 的に流行させられたものである。「サンタ・ルチア」「私の太陽」等はその例であり、 それらはマンドリンの伴奏で歌われることが多い。 タラントは更に開放的・情熱的である。イタリアの熱狂的ダンスのタランテルラはこの 地方で起こったともいわれ、この辺で盛んである。 カラブリア地方のものは一層熱狂的で、しばしば残忍な歌詞もみられる。 海峡を越えたシチリアは、暖かい所だけにのどかな農民の音楽(シチリアーナ)もある が、また、露骨で強烈で残忍殺伐な音楽も少なくない。その上古くから東洋人(特に アラビア人)やギリシャ人等の寄港地でもあり、今もアラビア系、ギリシャ系の人が多い ので、その音楽には東洋的な特徴(東洋風な音階、特に小さい音階を用いるもの、 細かい多くの装飾音等)がみられる。 サルデニア島の音楽には北方的な傾向が濃い。コルシカの音楽はイタリア的で、強烈 で殺伐のものが目立っている。 ドイツ―ドイツ民族音楽は、オーストリア、スイス等広い地域に及んでいる。全体としてはイタリ アのものと対照的に内省的・抑制的で慎ましく、抒情的でもあり、合理的でもある。 旋律は、一般に簡素で、しかもよく均整がとれていて、形式が整っている。 音階は、普通の和声的なもので、大抵は長調である。 音程は、3度や5度などの和声的なものが多い。 拍子は、2拍子や3拍子のような明快なものが普通である。そして一音に対して歌詞の ひと綴りを当てるのが一般で、イタリア風のメリスマは殆どない。 形式は、二部形式またはそれの変化したもの(特にバール形式)や三部形式が主とな っている。 表出は、一体に抒情的で慎ましい。ドイツの民族音楽にも地方的その他の特殊性が あって、南部(チロル地方)のものは広い音程を用い広い音域の中で、声域を変えて (所謂ローデル)、北部のものは重苦しいものが少なくない。 ダンスではワルツが特に有名であるが、その他にもいろいろある。 →ドイツ音楽 フランス―イタリアとドイツのものとを折衷したようなもので、イタリアのものほどではないが開放 的で、ドイツのものほどではないが抒情味がある。そしてしばしば優雅で愛嬌があり、 また、ユーモラスのことも少なくない。 リズムには生気がある。 拍子は、八分の六その他の複合ものを多く用いる。 音階は一般に普通のもの。 音程は目立ったものが少ない。 ダンスにはメヌエット、ガヴォットなどがあったし、今もいろいろダンスがある。 →フランス音楽 スペイン―ヨーロッパ中での南国で、しかもピレネー山脈で大陸諸国とかなり切り離されてい る上に、長くアラビア人の支配を受けていたので、他国と全く違う民族音楽を持っ ている。 音階は、東洋風 音程は、アラビア的に細かいことが少なくない。 旋律は、東洋的な装飾が多い。 表出は、全体として情熱的で、露骨で、強烈である。 ダンス曲が多く、民族音楽の大部分はダンス曲である。そのうち北部のアラゴン やナバラから起こった明快なホタ、アングルシアの熱情的なファンタンゴ、ボレロ、 セビリアのセギディリャ等は特に有名である。 多くはカスタネットやギターに伴奏され、ダンスと同時に歌われる。その他に個々 には聖母マリアの讃歌であるカンティガもあるが、これも東洋的である。 →スペイン音楽 イギリス―地方によってかなり違っている。 イングランド(イギリスの民族音楽の主要部をなす)の古いものには、教会音楽(特 にドリア、エオリア、ミクソリディア)またはその他の特殊な音階と自由なリズムによ るものが少なくないが、新しいものには和声的音階による大陸的なものが多い。 性格的には元来、アングロ・サクソン風に快活で剛健であったが、ノルマン風な抒 情味やフランス風な優雅さを加え、紳士的に中性化したものも少なくない(例:「君 が目をあげて飲み給え」等) スコットランドの民族音楽は、アイルランドと共にイギリスのうちで最も性格的な 民族音楽を多く持っている。ここでも教会音楽によるものが多いが(特に低地のも の)、また、五音音階に基づくものも少なくない。 もの)は低地方のものはイングランドのものに似ているし、高地地方のもの(特に 西部のもの)はアイルランドのものに近いところがある。 リズム=スコットランド切分法(Scotch snap)が少なくない。 性格=かなり素朴で、しばしば角張ってもいるが、抒情的に美しい。 アイルランドの民族音楽は豊富で美しい。 旋律=自然的で技巧に富み、その詩的な美しさは世界無比であろう。スコットラ ンドほど強烈ではないが、素直で抒情的である。 音階=教会音階が少なくなかったが、今は和声的なものがものが多い。 ダンス(ジグ、リール等)も広く知られている。 ウェールズの民族音楽は一般に頑強で、角張っていて、リズムは大胆。 →イギリス音楽 スウェーデン―ノルウェーのものより陰惨の度が少なく、柔和で憂愁であり、短調のものが 多く、一体に抒情性に富む。 スウェーデン音楽=12世紀頃にグレゴリオ聖歌が入ったが、17世紀になるまでは、 特に見るべき音楽活動が起こらなかった。17〜18世紀の音 楽も民族的性格をあまり発揮しなかった。最初の民族主義 音楽の現れと思われるのはJ.F.パルム(1753〜1821)や O.アールスレーム(1756〜1821)が民族歌曲を集成し、 スウェーデン語の歌曲を作ったことである。 これらの基礎の上に“スウェーデンのグリンカ”と言われるI.ハル ストレームなどが出たが、やはり外国の様式を重んじている。 デンマーク―位置的にスカンディナビア諸国のうちで最も南に位置し、大陸続きなので、 その民族音楽はかなり西洋化しているのが、なお特有の性格を持ち、北国 抒情味を持っている。 →デンマーク音楽 フィンランド―「千の湖の国」と呼ばれ、多くの広い沼地、千古の深い森、永くて暗い冬で 知られ、東洋人の血を受けたものを国民としているので、その民族音楽は 他のスカンディナビア諸国のものとは著しく違っている。一言で言えば、北国 的に重々しく陰惨であるが、茫洋として大きく、落莫とした感じがある。 初めは即興的・叙唱的なものが多かったが、やがて特有の旋律的類型を取る ようになった。 この地に特有な単調で哀感に溢れた短い歌曲ルーノ、及びその以前の旋律の 音程は狭く、多くは4度か5度くらいで、広くても8度(特に基音の上5度と4度下 の間に)限られていたが、ルーノ以後には音域がかなり拡大された。 調は、多くは中性的で短調的であり、リズムには拍子の枠に容易にはまらない ようなものもある。 この地の楽器には五弦のカンテレやクロッタに似ている三弦のヨウヒカンテレや 樹皮製の管楽器などがある。 →フィンランド音楽 ポーランド―スラヴ風である。非常に古いものもあるが、(例:コレンダというクリスマス歌曲 には13世紀頃のものもある)、器楽として発達したものが多く、従って旋律上の 音程は、声楽的でなく、一般に極めて自由である。 音階=普通の和声的なものの他に古い教会音階も少なくないし、和声的な音 階も特別な方法によって用いられることが多い(例:基音以外の音で終止し、 或いは第 六音を省くなど)。 リズム=自由で、拍子の多様な変化が目立つ。 ダンス=ポロネーズやマズルカやこれに似たオペルタス、クイヤヴィアク、クラゴ ヴィアク等が広く知られている。 →ポーランド音楽 ハンガリー―ハンガリー民族はスラヴ人ではなくて東洋系のマジャール人の国なので特別の 民族音楽を持っている。単純な、単調に繰り返されてゆくリズムを持ち強い力を 持っていた。 テンポ=テンポ・ジュスト風な誇らしげなダンスと叙唱風な譚歌があり、ともに 特有なものであるが、構成的な形式を具えていなかった。 しかし、16世紀には、特に1526年にモハッチの戦争にトルコに惨敗してからは、 トルコの音楽の影響も受けるようになった。 ジプシーはどこに発生したか明らかでないが、インド辺に起こったと考えられ、エ ジプトの辺りを経てヨーロッパに入った流浪の民族で、一定の国土を持たず、各 地を歩き回わるのであるが、ヨーロッパカウチに散在し、特にロシア、ルーマニア、 ハンガリーに多く、ハンガリーではその地の元来の民族音楽を変えた。 理由は、ジプシーが音楽に長じ、特に即興の才能に恵まれている上、その音楽 が特別なものだからである。 音階=ジプシー音階で、普通の音階特に和声的短音階の4度を半音上げ たものなどを使う。 リズム=求愛(フェルブンコ)といわれる切分法的なものが多い。 旋律=ジプシーの愛好楽器であるチェンバロンでの即興から由来したグリッ サンド的な装飾が目立つ。 上記のようなものがそのままハンガリーの音楽と考えられるようになった。 リストの「ハンガリー狂詩曲」やブラームスの「ハンガリアン・ダンス」等を初めと して、無数にある“ハンガリー音楽”は、実は“ジプシー音楽”に他ならない。 それが純粋のハンガリー音楽でないことは、ハンガリーの大作曲家で民族音 楽研究家のベラ・バルトークやゾルタン・コダーイ等によって主張された。 バルトークによれば、ハンガリーの民族音楽には三種類ある。 その一つ、古式のものは、五音音階による素朴なもの、第二は「青年の歌」で、 18世紀に起こって教会音階化した七段8度の音階によるもので、求愛リズムに 富んでいる。第三は、混合型ともいうべきもので、外国の影響を受けたものであ る。 →ハンガリー音楽 ユーゴスラヴィア―主としてスラヴ人の国であり、東洋と西洋の接触点であり、永くいろいろな 民族の支配を受けて来たので、特殊な、多様な民族音楽を持っている。 メジムルエ地方(ハンガリーに近い)のものは西洋風であり、ハンガリーの 影響を示し南部地方のものはロシア風で、抒情的でもあり好戦的でもある。 この地方にはグスラという素朴な弦楽器が行われている。 スロヴェニア地方のものはドイツ風なところがあり、クロアテイアには東洋 的なそして狭い音程で動く民族旋律が見られ、ダルマティア地方には、素 朴なオイカニュエという歌い方が残っている。 ルーマニア―ユーゴスラヴィアのもの以上に混種的で、ハンガリー、東洋(特にトルコ)、西洋、 ロシア、ビザンツ音楽等の要素を交えているが、なお元来の性格を失わない。 音階=五音音階でいて教会音階風である。 旋律=4度の下行が目立って多く、基音以外の音で終止することも少なくない。 リズム=叙唱的な自由が少ない。 →ルーマニア音楽=ルーマニアの民族j音楽は古くて豊かであり、ビザンツとトル コの影響を示している。しかし、近代的な芸術音楽はようやく 20世紀に始まった。 最初のそして最も重要な代表者はエネスコ(1881〜1955) であるが、彼は印象派の影響も受けている。その他はまだ 世界的には知られていない。 ギリシャ―ルーマニアと同様に混種的で、東洋的な音程や装飾等を用いることが少なくない。 →ギリシャ音楽 ロシア― 非常に多くの特徴に富む民族音楽があって、今も広く知られている。その民族音楽に 特徴が多い のは、それがゲルマンやラテン人の音楽ではなくてスラヴ人の音楽であり、 ローマ・カトリック教徒またはプロテスタント教徒の音楽ではなくてギリシャ正教徒のも のであり、永く圧制を受けた民衆のものだからである。 ロシアの民族音楽の歴史は古く、9世紀に出来たロシア国より古い。既に6世紀には グスリという素朴な弦楽器が広く愛好され、これに合わせて民族音楽を行っていた。 初めはビザンツ的、ギリシャ的のものだったが、また東洋の(特に蒙古人の)要素を加え、 更にフィンンランドやウクライナやスカンディナヴィア等の影響を受け、ジプシーの感化も あって、全く特有なものとなった。 音階=西洋のものと同じか、または似ていることもあるが、多くは特殊なもので、大 抵は教会音階(特にビザンツのもの)のような構造をなし、しばしば導音を持 たない。 旋律=原則として全音階的信仰をなすが(その時には、短調で4度jから1度に、長 調で2度から6度への下行が目立っている。 また、ジプシー及び東洋的な音階の影響のために、半音階の、または半音 以下の音程を用いることも少なくない。 リズム=極めて性格的で、時には最も規則的に出来ていて、単純な動機または旋 律断片を何度度も執拗に繰り返すことが少なくない。(例:有名なヴォルがの 船歌」にも見られる)。 また、あらゆる規則を破って、最も複雑な混合拍子をなし、或いは全く拍子に 入れられないこともある。 和声=ドイツで普通になっている3度や6度の単純な連続をなすことが殆どないが、 オルガヌムまたはフォーブルドンのような原始的な方法から極めて複雑なもの まで、あらゆる方法をとって、豊富な多声部音楽をなす。 ロシアの民族音楽は他国には見られないほど多様である。というのは、その土地が広く、 そのうちに20以上のはなはだしく違う方言が語られているので、種族の生活も感性もか なり違っているからで、あり、また、この国が歴史的に非常に多くのことを経験して、その 音楽が時代と共に変化したからである。 けれども、概して西洋諸国のものと違っていることは事実で、ドイツ的に抒情性のもので もなければフランス風に典雅でもなく、一般に陰惨で、重々しく、しばしば圧迫された民衆 の苦悩と諦感を表しているが、しかしまた、その反動として素朴な、爆発的な心情を露骨 に表出していることも少なくない。 なお、ロシアにおいては、ビザンツの教会音楽の影響は著しく、これは、ウラディミール 大公が9世紀の終わりにビュザンティウムのギリシャ正教の洗礼を受けてからのことで、 11世紀頃か ら特に著しくなった。これは民族音楽に深く浸透していった。 ロシアの民族音楽は日本にも広く知られているが、アリャビエフの「夜鴬」やヴァルラモフ の「赤いサラファン」等のように半ば西洋風にさっkyほくされたものも少なくない。 →ロシア音楽 アメリカ合衆国―ロシアのもの程性格的ではないが、同じように多様である。それはこの国が広く、 その上多くの民族が国民となっているからである。 インディアン音楽―この地の先住民であるインディアンは、音楽的で、単純素朴な音楽を 愛している。 その音楽は単旋律簡単なものであるが、性格に富み、その音階は五 音音階で、リズムにはスコットランド切分法に似たものがある。全体 としては、哀愁味をおびたものが多い。 こういうインディアン音楽は、そのままでも知られているが、スキルトン やリューランスやキャドマンなどによる編作としても有名になっている。 黒人音楽―アメリカには黒人も多い。彼らもまた音楽的で、特徴のある音楽を持っていた。 特に、五音音階による素朴な、スコットランド切分法のようなものを用いたもの が広く知られている。その音階はのちには白人の影響によって普通の和声的 なものに変わったが、リズムの特性は永く続いていて、ラグ・タイムにもなった。 黒人の音楽にはいろいろあるあが、現在広く知られているものは、哀愁味を帯 びた静かなもので、特に黒人霊歌として知られている宗教的なものである。 これは、奴隷生活の苦悩を素朴ではあるが強い信仰によって慰めたもので、 そのままも広く歌われているし、アメリカの新しい民族音楽にも取られた。 また、黒人を模した見せ物風な興業のミンストレルが歌ったものにも民族音楽 となったものが少なくない。 エメットの「ディキシーランド」もその一つであるし、フォスターの歌曲にもそれが ある。 フォスターは勿論白人であるが、黒人の語法による歌曲を作詞作曲した。そし て、その多くは、民族音楽のようになった。 南部の農場地に起こった黒人の、または黒人風の歌曲は、農場の歌としてアメ リカの民族音楽の一つのジャンルとなった。 西部地方のカウボーイ(牛飼い)の歌もアメリカの民族音楽に数えられているが、 その多くは、他の民族音楽、特にイギリス系のもののパロディ化である。 →アメリカ音楽 カナダ―ここの民族音楽も多様であるが、フラン系のものが目立っていて、フランスの民族歌曲その ままのものも歌われている。しかし、ここではフランスの移民達がカナダで作ったフランス的 な民族歌曲もあり、他にイギリス系のものもある。 中南アメリカ―いわゆるラテン・アメリカで、大抵スペイン系の民族音楽を持っているが、その他に インディアンや黒人の要素も加えている。 ラテン・アメリカの民族音楽のうちで最もスペイン的なのはチリのもので、それには 4分の3拍子や8分の6拍子等の拍子の快活な歌曲が多い。 ブラジル―ポルトガルの植民地だったことから、その民族音楽も一般にポルトガル的であり、ラテ ン・アメリカの中では最もスペイン的要素が少ない。 モディニア(歌ということ)もポルトガル系のものであるが、ポルトガルでは瞑想的なも のだったが、ブラジルでは黒人の影響によって、リズムが複雑になっている。 なお、この地にはインディアンが非常に多く、その音楽も行われているが、その音楽は ポルトガル系のものと別の存在をなし、あまり混合していない。 ペルー―インディアン的要素がスペイン的及び黒人的なものにやや混入している。しかし、それに しても、インディアン風のものは山間地方に多く、海岸地方のものは、一般にスペイン風 で楽 しい。この地のヤヴァリ(愛と悲しみの歌)は有名である。 メキシコ―インディアン風のものが目立っているが、またスペイン系のものが主となっている。 その拍子には不規則的なものが少なくないし、その音程には西洋音楽に見られない ようなものがある。 アルゼンチン(現地語ではアルヘンティナ)―一般にスペイン風であるが、インディアンの要素も 加えている上に、土地の事情に従って変化しているものもあって、やや複雑で ある。例えば、パンパ(大草原)の歌、ガウチョ(一種のカウボーイ)の歌なども多い。 こういうものは生気があり、ダンス曲風になっているものが多い。なお、この地に はタンゴ、サンバ、ガト、チャカレラ、パラパラ等のようなダンスもある。但しパラパ ラはボリヴィアでも盛んなようである。 キューバ―ハバネラが有名。19世紀の初めにこの地で起こった緩やかなテンポの4分の拍子の 舞曲で、特徴のあるリズムを持っている。(ビゼー作曲の歌劇「カルメン」のハバネラは 有名だが、これはスペインの作曲家イラディエールの作品を借用したものである)。 |
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